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2025.01.06

「人生フルーツ」と「ゆっくばこ」と。

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2017年、1本の映画を観た。

「人生フルーツ」

愛知県、春日井のニュータウンのはずれ、一組の夫婦の暮らしとその人生。

これまでのお二人の人生と、なぜそこに暮らすのか、をドキュメンタリーとして撮影されたもの。私自身も泉北ニュータウンに暮らし、こんな暮らしができたらな、と感銘を受けました。

2017年当時、独立してから入居させていただいた「さかい新事業創造センター」で、次はどうしようかと思案中でしたが、この映画をきっかけに、今住まいのニュータウンで、地域に根差した自分らしい暮らしをしたいと不動産物件を探していました。

その頃のSNSで、

「泉北ニュータウン近郊、少しそれると豊かな農村風景が開け

いつになく空を近くに感じながら、

両側畑に挟まれたまっすぐな道を走り抜ける。

走り進めるとロードサイドに、小さな小屋のような建物が、

切妻のトタン屋根から出た1本煙突から少しの煙をあげながら建っている。

建物の周りに、何台かの車やバイクが無造作に停めてあり、同じようにバイクを停めて建物内部に入ってみた。

アンティークなガラス框戸を、ガラガラと戸車が走る音をたてながら開けてみると、大きなアンプを経たアナログなスピーカーから柔らかな音質のジャズが流れている。足場板のような使い古したフローリングが敷き詰められている店内へ。

その空間の中心には無垢材の大きな長テーブルが横たわり、

お客さんはまばら、大小テーブルやカウンター、ソファスペースと、好きな居場所を選んで仕事、勉強や会話をしたりと、各々の時間を過ごしているようだ。

その中で、窓際の小さなテーブルに就いてみた。

窓からは、ようやく冬が終わろうとすることを告げるかのような、あたたかい日差しが、比較的暗い店内に、やわらかに入ってきている。

カウンターの奥から、この店のおすすめらしいカレーと、ひき立てのコーヒーの香りが広がっている。

不愛想なマスターが淹れてくれたコーヒーを味わいながら、

「今年も春が来たか。」そう呟いて、

デッキ越しに広がる春に向けて準備が始まった農村風景を眺めた。

って、こんな場所を造りたいと妄想しながら。

ええ物件、ありませんかね」と、案件を探すために告知していました。また、そのイメージはこのような建築で。

しっかり、そのイメージは出来上がっていました。

そんなとき、私のSNSを見た知り合いの不動産屋さんから、「こんな物件あるけど、どうかな?」と連絡いただきました。

 

かなり私のイメージに近い、築50年の物件でした。オーナーさんは近くにお住まいで、賃貸に出されているとのことでした。泉北ニュータウンの合間になる旧村と呼ばれる場所。すぐそこはニュータウンでしたが、農村風景が美しい環境にありました。

建物を見ると、なかなか難しいけれど、なんとかしたい、という気持ちが沸き上がってきました。

まずは、解体工事から。駐車場部分の2階建てデッキバルコニー、庭にある離れの倉庫、そして、前面道路を隔てるブロック塀、庭石まで、とことん解体工事をかけて、まずは純粋な建築を見せるところから始まりました。

 

これからの家にデザインすることと、性能を担保すること。耐震性、断熱性、気密性、そして、創エネとして、リフォーム版ZEH住宅として生まれ変わりました。

住宅医の改修事例 №0142 今あるものを活かす建築技術者をめざして~中古住宅の資産価値を高めるリノベ「ゆっくりばこ」 へ

そして、外構エクステリア。全面道路とを隔てる塀を解体、そこに里山となるような雑木林を考えました。

 

街に対して、閉鎖的でなく。とっても開放的かというとそうでもなくて。四季折々の里山の表情で存在する家に生まれ変わりました。

その地で育てたもので、料理する。そして、その季節に採れるものをいただく。

これまで、泉北の公園で開催していただんぢりキッチンのカレー。

また、サツマイモを育てて、廃材の薪で作る焼き芋。

あれから、5年。独立したころの目標はそのままに、「泉北ニュータウンの活性化」をテーマに、

毎月毎月、地域の方々に使っていただき、少しずつこの地域にこんな場所があるんだと、広がってきました。

YouTube 「ゆっくりばこの日常」 へ

また、2024年には、グッドデザイン賞に応募。

主題は、地域に開かれた職住一体化住宅「ゆっくりばこ」 

築50年の古民家を耐震・断熱リノベーションした職住一体型住宅。

伝統的な日本家屋のパッシブ性能に、現代の省エネと創エネ性能を融合し、自立循環型の「働く家」として活用している。

同時にシェアキッチン、コワーキングスペースとして地域に開放し、高齢化が進むニュータウンのコミュニティ維持、持続可能な地域づくりの実験拠点でもある。

 グッドデザイン賞受賞ギャラリー へ

これまで、人生フルーツを観てから、こんな暮らしがしたい、と頑張ってきたことが報われた気持ちになりました。

そして、毎週月曜日、新住協関西の皆さんでさせていただいているYouTubeライブで、人生フルーツの映画が話題になり、この映画を呼んで上映会をしよう!ということになりました。

会場は、私が2017年に観たときと同じ、十三にある「第七藝術劇場」にて。

 

 

人生フルーツは、あの頃と同じ輝きでスクリーンに映え、5年前観たときよりも大きな感動を得ました。

最後に、グッドデザイン賞を受賞した際、申請の中で最後に添えた、「ゆっくりばこ」に込めた思いです。

 

大阪府堺市、泉北ニュータウン。もともとはベッドタウンとして50年前に開発されました。周りには田園風景や美しい公園が広がり、住環境としては抜群ですが、少子高齢化の影響もあり空き家が増えつつあります。

活性化のためにはこの場所の魅力を共有し、ベッドタウンとしてだけではなく、人が『暮らし』『遊び』『働ける』環境づくりが必要だと考えました。

平成25年に独立開業以来、公園を舞台に泉北産野菜を使ったカレーの店を出したりしながら魅力を発信してきましたが、今度は家をベースに「住み開く」ことで、地域の方に使っていただき、地域循環・活性化の一端を担えたらと計画しました。
令和元年9月に中古住宅付き土地を入手。冠婚葬祭まで家で対応できたシンプルな田の字型プランを現代にアレンジ。

地域拠点『ゆっくりばこ』と名付けました。

厨房スペースがあり、飲食営業と菓子製造業の許可も取得済みなので、飲食店や菓子店などを小さく始めたい人や、パン教室・料理教室などをやってみたい人のチャレンジの場としても利用可。

20畳ほどのリビングスペースはヨガ教室などにも使用されています。平日の9時〜16時、1日500円でWi-Fiと電源が使えるコワーキングスペースとしてもオープンしています。
地域の設計事務所・工務店として、どうあるべきかを私たち自身、または会社として考えてきました。大切なのは、個々の家のデザインや性能がどうあるべきかという建築的ハードと、その家から広がる『暮らしのあり方』を提案すべきではないかということ。

築50年の家を、日本建築が元来持つパッシブハウスとしての性能を活かしながら、耐震・断熱・省エネの現代の高性能技術を施し、サービス機能付きのZEH住宅として蘇らせる設計・施工技術を見て、体感していただくと同時に、コロナ禍を経て、地域で豊かに暮らすには…の視点で、これからの『持続可能な暮らしのあり方』を模索するきっかけとしていただけたら嬉しいです。

憧れ、目指したのは映画『人生フルーツ』の津端修一さん・英子さん夫妻の来し方と暮らし。

「本当の豊かさとは」を考えるきっかけをいただいたお2人への感謝と敬意を込めて。
ニュータウンのはずれ、雑木林の小道を入ってゆくと、

そこは人々が偶然出会える場であり、『特別でない普通の暮らし』を提案する場所。

「住む」と「働く」が一緒になった豊かさ、『ゆっくり』であることの心地よさを感じてください。

 

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